まず、今回のイベント内容全体につきまして、その後、T氏と綿密な打ち合わせを重ねた結果、商品ラインナップやその他情報に若干の変更が出ています。
前回のJournal記事内容も一部加筆修正していますので、今一度ご一読をお願いいたします。
そしていよいよ、ここからは個別の商品説明を。
ちなみに、今回はいつも以上に激レア、二度と手に入らない品質のデッドストックレザーを用いた製品が多いのが特徴です。
しかもそれぞれの革在庫は非常に少ないため、製品によっては1つしか作れなかったりするものも…
いつも以上に競争率が高く、完全に先着順の早い者勝ち、ものによっては争奪戦の予感がしています。
ということで、革在庫が少ない製品から優先してご紹介しますね。
まずは今回のトランクショーの一番の目玉と言っていいでしょう、ORCHESTRA(オルケストラ)のイントレチャートハンドソーンシリーズ。
こちらは、オペラパンプス型のContrabbasso(コントラバス)、ヴィクトリアンレースアップ型のViola(ヴィオラ)、計2型展開になります。
まずはContrabbassoのご説明から。
アンティークのオペラパンプスをベースに作り上げたという力作。
なんといっても、この編み込みレザーが雲上クオリティです。
いわゆるイントレチャートというやつですが、イントレチャートといえば皆さま、ボッテガヴェネタが真っ先に思い浮かぶのではないでしょうか?
実はこの革、そのボッテガがかつて一時期だけ使用していたもの。
閉鎖工場から極少量出てきたかなり昔のデッドストックで、超貴重品になります。
まぁ、下手にウンチクを語らずとも、この質感や佇まいには皆さん圧倒されるかと。
半端ではない説得力とオーラがあります。
この編みの細かさ、複雑さも凄いですが、なんといっても編み込みに使用している革の品質が異常。
これ当時においても最高品質の最高級ヴェネチアンカーフが贅沢に使用されているんです。
この凄さがいまいちピンとこないかもしれませんが、この手の編み込み革の場合、革と革が重なり合っているため理論上は2倍の革を使うことになりますし、直線的に短尺状にカットしていく特性上、生地端などにはロスが生まれるため、実質的には2.5倍から3倍の革が必要になります。
編み込まない普通の革の3倍近いコストがかかってしまう、しかもさらに編み込み工賃もかかる、ということでただでさえ革代が膨れ上がってしまうのに、さらにこんな最高級ヴェネチアンカーフをマテリアルとして使用することなど、今では到底考えられないことです。
あまりにも高くなりすぎますからね。
ではなぜ当時、こんな革が作られ使用されていたのか?
その理由についてはイベント当日お話しさせていただきます。
当時の技術革新や市場競争などが絡むとても興味深い内容ですので、お気軽に店頭にてお尋ね下さい。
そんな超高級&超高品質レザーを贅沢に使用し、オペラパンプス型のハンドソーン本格靴仕様で仕立てるというのがさらに異常。
しかもこれが気をてらった奇抜なものでもごく限られたオケージョン用でもなく、ファッションとして気軽に普段使いできて、履き心地や耐久性にも妥協なく作り込まれているというのが素晴らしいところ。
まぁ、単純に美しくてカッコいいんです。
上から見下ろした感じは華奢でエスパドリーユのようなニュアンスも感じさせますが、実際は9分仕立てのハンドソーンウェルテッド製法ですので非常にしっかりとしており、頼りなくフニャフニャな感じは皆無。
しっかりと麻糸に松脂を擦り込ませたチャン糸ですくい縫いするなど見えないところにも妥協なく、このスペシャルレザー仕様ではなかったとしても、同じイタリア製でハンドソーンのボナフェあたりであれば、15万円は下らない価格設定になるであろうクオリティと作り込みです。
しかもさらにアッパーにはスーパー高級革を使っちゃうんですから、その販売価格は一体いくらになっちゃうのよ?とご心配になられるかと思いますが、ご安心下さい。
なんとかギリギリ現実的な価格に収めてあります。
ま、それでもかなり高価なものではありますが。
なお、木型はGINO RAIMONDIのUチップなどと同じものを採用。
たしかガットのビスポーク木型がベースだったと記憶していますが、もちろんツイステッドラストで甲部分のフィット感が高く、よくある単純なストレート木型よりも足への追従性が高いというのも特徴です。
また、履き口周りなどはブラウンのレザーで細いパイピングが施されており、見事な抑揚が。
より立体感が増して見えます。
でも、ウェルテッド製法のわりにコバが張り出してないじゃない、ホントはマッケイ製法なんじゃないの?と思われた方。
非常に鋭い!
これ、実はブラインドウェルトみたく、コバとダシ縫いを隠す特殊製法を特殊機械にて再現したもの。
おそらく世界的に見ても、機械のダシ縫いでこれに酷似した製法を採用しているのはORCHESTRAだけだと思います。
そもそも、これをやるにはダシ縫いがかなり奥に入っていないとできません。
まずそのダシ縫いですが、マシンに付いていたガード用のカバーをあえて外すことで、可能な限り奥にかけることに成功。
もちろんアッパーを傷付けるリスクがあるため、かなりテクニカルで精度が問われます。
そして、100年前のアンティークダシ縫い機を齢90歳のエンジニアに調整してもらい、ウェルトを靴の下に入れ込む処理ができるよう改造。
これがこのおじいちゃんにしかできない芸当らしく、わざわざT氏と職人が車で自宅まで迎えにいってまでやってもらったそうです。
こういった部分にもT氏の涙ぐましい努力が詰まっています。
お分かりいただけますでしょうか?
斜め横方向からだと、奥の方にダシ縫いがかろうじて見てとれます。
まぁ技術的なことはともかく、こうすることでウェルテッド製法ながらもコバの張り出しがない華奢でスマートなルックスを実現。
マッケイ製法でも見た目だけなら同じようにできるかと思いますが、より耐久性に優れ、分厚い中底により地面からの突き上げもゆるやかという、ハンドソーンウェルテッド製法の優位性が活かされた作りになっています。
当然手縫いである分コストアップしてしまいますけどね。
他の仕様も凄まじいのにこの価格設定。
T氏も我々も頑張っています。
なお、このオペラローファーを含め、今回初お披露目となるORCHESTRAの新作4足に通底するテーマは、
「もっと気軽に革靴を楽しんでほしい」
というT氏の想い。
このため、各モデルには履きやすさや歩きやすさなどの共通点があります。
今回ご紹介するContrabbassoとViolaに共通するのは脱ぎ履きのしやすさ。
実はこれ、かかとが踏めちゃうんです。
実際には編み込みレザーが細かいこともあって、かかとを踏んでの着用は推奨していませんが、つまりこれは靴べらが不要ということ。
スニーカーと同じ感覚で足入れすることができますので、とっても楽チンです。
ちなみにカウンター芯だけでなくつま先側の先芯も入っていないためアッパー全体が柔らかく、肌当たりもコンフォータブル。
ウェルテッド製法特有のしっかり感もありますが、ハンドソーンを採用することでグッドイヤーのような硬さがなく、はじめから適度な返りもあるため、アッパーの柔らかさを損ないません。
なんというか、レペットのジャズシューズのような軽快感もうっすら匂わせながら、同時に堅牢な頼もしさもあり、履き心地は適度にしなやかで長時間履いても疲れにくく、ガシガシ使えるという不思議なバランス。
革が特別というだけでなく構造もユニークで、他では見つけられない特異な一足に仕上がっています。
ダシ縫いがかなり奥深い位置にあることに加え、特殊技法でコバを押し込んでいることもあり、オールソールは通常のものより厄介ということで、新品の状態からビブラム製のハーフラバーが付属。
T氏も我々も、基本的にハーフラバー装着での運用をオススメしていますし、イタリアのビスポーク界隈でもハーフラバーはマストな仕様らしいですから、デフォルトでの付属はありがたいものです。
今やハーフラバーを付けるのに4,000円くらいかかる時代になりましたし。
ちなみにうっすらフィドルバック気味に仕上げてあるのもポイントです。
編み込みなのでスースーしそうですが、ライニングがついていますのでそんなことはなく、一年中着用OK。
履き口が広めで素足の見える分量が多いため、ソックスに差し色を持ってきてアクセントを加えてもいいですし、暖かい季節はフットカバーで素足風に履いていただくのも軽快で良さそうですね。
オリーブの軍パンや生成色のワークパンツなど、ラギッドなカジュアルボトムスと合わせてリラックスしたムードで履いていただいてもカッコ良さそうですし、リネンやシアサッカー等の風合い豊かなスーツに合わせたリゾートっぽいスタイルも素敵かと。
コバの張り出しが少ないスマートな輪郭とはいえ、ロングノーズで華奢すぎる一昔前に流行ったマッケイ靴のようなものとは全然違いますのでご安心下さい。
中庸なボリューム感でキザになりすぎず、それでいてエレガント。
こんな靴は誰も持っていないと思いますので人と被りませんし、コーディネートの幅も広がりそうです。
あ、ちなみに肝心のことをお伝えし忘れていましたが、こちらの革は奇跡的に少量入手できたデッドストック品になりますので、オーダー可能数には限りがあります。
現時点で10足程度は作れるだろうとのことですのでその数くらいまではオーダーをお受けする予定ですが、サイズなどにより生産可能数量は増減する可能性があるため、オーダーいただいたとしても100%お渡しできる保証はなく、革不足のためキャンセルとなる場合がありますこと、あらかじめご了承下さい。
オーダーいただいた順に生産計画に入りますので、可能な限りお早めにオーダーいただくのがオススメです。
そしてお次はもう一つの形、Violaという1アイレットの外羽根レースアップモデルのご紹介。
こちらは、T氏がヴェネチアの靴博物館で見たヴィクトリアンシューズからインスピレーションを得て製作されたものとのこと。
確かに古靴のようなクラシカルな美しさがあります。
ちなみに木型は前述のContrabbassoと同じもの。
木型が同じでも、デザインが変わると随分印象が異なるものですね。
アッパーのイントレチャートレザーの種類が異なるというのも大きいのですが…
革については後述します。
この手の編み込みレザーの場合、トゥ部分に大きな面積で持ってきてしまうと高確率でダサくなってしまう危険性があるらしく、バランスの取り方にかなり腐心したとのこと。
解決策として、ヴィクトリアン時代に用いられていた外羽根をよりつま先に近い位置に持ってこれるように、くるぶしサイドのアッパーを低めの設計に。
そうすることで、この手の強めの印象のレザーに対しても、よりエレガントな風合いを入れ込むことに成功しています。
赤みのあるダークブラウンのイントレチャートレザーと、グレーがかったブラウンのスエードレザーという、バイカラー&バイマテリアルの適度なコントラストも秀逸。
シャツ襟のような形状の、シャープで繊細な羽根も今時珍しいですが、時代錯誤な感じや気を衒った感じがなく、美しくまとまっています。
あえてシューレースはくすんだピンクの丸紐、というのもアクセントとして効いていますね。
これをダークブラウンの蝋引き平紐なんかに交換しても、それはそれでシックに見えて素敵そうですが。
この辺りはお好きにアレンジしていただければと思います。
こちらもContrabbassoと同じく、一般的なレースアップシューズに比べて履き口広めで素足の見える分量が多いため、ソックスの色味でアクセントを加えやすいのも特徴。
エレガンスを感じさせながらも羽根の位置関係で捨て寸が短く、どっしりとしたフォルムにも見えるため、いたずらに華美な感じやフェミニンな感じのない、不思議な安定感のある絶妙なバランスです。
まぁ、これで細身でシュッとしすぎていたら、ちょっと色気が強すぎていやらしい感じになりそうですからね。
なお、こちらのイントレチャートレザーは先にご紹介させていただいたものに比べればかなり編み目が大きく(むしろあちらが細かすぎる感じですが…)、編み方も布帛で言うところの1×1の平織りでシンプルな構造。
革自体も毛穴の感じからピッグスキンっぽいです。
正直なところ、革質・編み立て、どちらをとってもぶっちぎりで最初のタイプの方が優れていますし、当時の販売価格でも2倍の開きがあったとのこと。
だったら、Contrabbassoで使われていた方のイントレチャートレザーでこのレースアップシューズ型を作って欲しくなるのが人間の性というものです。
それができるんですよ、奥さん。
実はこれ、オーダー時にお好きな方のイントレチャートレザーをお選びいただけます。
ですから逆に、この大柄イントレチャートレザーを使ったオペラローファー型をオーダーいただくことも可能。
ただ、この大柄の方は特に極少量しか入手できなかったとのことで、2,3足しか作れないという話です。
こちらも前述の通り、オーダーいただいたとしても革不足によりキャンセルとなる場合がありますこと、あらかじめご了承下さい。
ちなみに革だけでなく、サイドエッジやヒールの積み上げ部分のアンティーク加工の有無も選択可能。
サイドエッジにはアンティークフィニッシュが施されており、
ヒール部分はあえて積み上げをずらすという一手間。
シャビーな美しさがあります。
なお、T氏曰く、オペラパンプス型はアッパー全体が編み込みレザーで印象が強いため、アンティーク加工はいらないかもしれないとのこと。
確かにサイドエッジはダークトーンでシックに引き締めた方が、アッパーの編みがより引き立って良いかもしれません。
でもアンティークフィニッシュした感じもそれはそれでいいかも?
革の選択といい、悩まされます…
ぜひ妄想を膨らませて下さい…
そしてこちらもContrabbasso同様、先芯、月型芯(カウンター芯)が入っておらず、クニャリと柔らかいのが特徴。
靴ベラ要らず、指でラフに履くことができますし、こちらはオペラローファー型と違い、倒したカカト部分が編み込みではないため、強度的にも問題なく、カカトを踏んで歩行いただいても問題ありません。
もちろんカカトを入れて履いていただいた方が歩きやすいですが、居酒屋で座敷に上がっていてちょっとトイレに、といった場面なんかでは特に便利そうです。
なお、コバの張り出しを極力抑えた特殊製法はこちらのモデルでも健在。
上から見下ろすとダシ縫い糸はおろか、コバもほぼアッパーに隠れていて、
マッケイ製法のようにスッキリとした見た目に。
それでいてハンドソーンウェルテッド製法の堅牢さや疲れにくさも兼ね備えており、まず量産靴としては見かけないレアなクオリティを誇っています。
こちらのモデルにも、デフォルトでビブラム製のハーフラバーが付属。
しかし改めて考えても、超スペシャルイントレチャートレザー + 量産には向かないビスポーク由来の複雑な木型 + ハンドソーンウェルト製法 + 特殊な足周り処理で、このプライス設定は異常。
こんな革でこんな仕様の靴を作れることなんて2度とないと思いますので、ピンと来た方はイベント初日でのご来店を強くオススメします。
とにかく早めが肝心ですから、ご都合が難しい方や遠方の方はお電話またはメールにてお気軽にご連絡下さい〜
続きます…